出産までのお話。

当院に来られた患者さんのお話。

この方は、不妊治療を始めてから10年が経ち、その間に2回妊娠されるも流産と死産を経験されていました。

もうこのような経験はしたくないという思いから、何か他の方法も取り入れてみようと考えていたところ、お知り合いの方から当院のことを聞き来院されました。

 

初診

問診表には、不妊治療の苦労が容易に想像できるくらいに、今までの経緯や今の状態などがびっしりと書かれてありました。

問診表を見ながらひとつずつ話を伺うと、以前に凍結した卵があり移植ができる状態でしたが、もうすぐ40歳という年齢的なことを考えて、移植よりも採卵を優先して進めていきたいということでした。

自覚症状として、体の冷えが強いので(漢方を服用してからは以前よりましになったようですが)夏場でも汗をかくことはほとんどないようで、血流の悪さを感じているようでした。

そこで、卵胞の育ち方を伺うと、成長が遅くてなかなか育たないとのことでした。

 血流の悪さはホルモンの運搬にも影響し、これが卵胞の育ちを遅らせている原因の1つだと考えられます。

また、体の冷えは心まで冷やしてしまい、考え方が悪い方へ悪い方へと向かいがちになってしまいます。

10年という不妊治療の経験から、どうしても良くない方向へ探し物を見つけようとしてしまい、また不安になるといった感じを受けました。

 

とにもかくにも、妊娠・出産できる身体にするには血流を良くして、体と心を温めていくことが大事だと考えて、ささない鍼とお灸に加えてよもぎ蒸しもしていくことにしました。

 


 

採卵に向けて準備をしていきますが、病院で処方された薬の副作用が強く出る傾向にあるようで、体の不調を鍼灸で和らげながら、なんとか採卵までこぎつけたといった感じでした。

 採卵は出来ましたが、途中で成長が止まってしまい凍結は出来ませんでした。

 

 1か月空けて、再度採卵の準備に入りますが、採卵のための薬の副作用が強く出て、 体が常に重だるくてしんどい状態になり、当院へもなかなか思うように来れない状態になりました。

 結局、身体の状態が良くならないので2回目の採卵は中止となりました。

 

このような経緯から、このまま採卵を続けることは止めて、以前に凍結してある卵を移植する方向に変更しました。

しかし、移植の準備段階でまたしても薬の副作用が強く出てしまい、次第に寝込む日が続き、体調が優れず移植は延期、それに合わせて当院での治療もお休みになりました。

 


 数ヶ月の休養を経て、再度移植に向けて身体を整えていきます。

 休養期間中にこれからのことを色々と考えられ、今回の移植の結果がもしダメだったとしても不妊治療はもう終わりにして、他の選択肢を考えていくということでした。

 

 今回の移植は、今までの10年間の思いも詰まった最後の移植になるので、後悔だけはしたくない、そんなことも話されていました。

 

 私の思いも一緒です。

 患者さんが生まれてくるお子さんをぎゅっと抱きしめるイメージを持って、ささない鍼をツボにかざしていきます。

 

そして神社に行って、気持ちばかりのお賽銭をちゃりんと入れて、二礼二拍手、奇跡を起こしてと心でつぶやき、そして一礼。

 


 移植方法は、今回初めてシート法で行うということで、それに合わせて鍼灸と今回はよもぎ蒸しも加えてしていきました。

 

○月1日  よもぎ蒸しと鍼灸

  4日  鍼灸

  7日  シート法

  9日 午前  鍼灸

  午後  移植

  12日  鍼灸

 

21日  判定日

 


21日 判定日

 

 結果  陽性

 妊娠しましたが出血が続き、そのことで過去のことがよみがえってくるようです。

 妊娠した嬉しさもつかの間、今回は無事に出産までたどり着けるのか、大きな不安が心を覆っているようでした。

 

以前に流産と死産の経験していることから、もう同じようなことは繰り返したくないということもあり、妊娠判定で陽性が出たあとも週に1回のペースで通院される予定でした。
しかし、出血がひどくて病院から絶対安静を言われて、当院に来ることはできなくなりました。

 

 私は、患者さんに「生まれてくるお子さんをぎゅっと抱きしめるイメージは持っておいてくださいね」と伝えました。

 


 

 妊娠するまではどうしたら妊娠できるのかを考え、妊娠後にはお腹の中のあかちゃんがちゃんと育ってくれているのかとても気になります。

そんな気持ちを何かで紛らわそうとしても絶対安静の身としては、外の天気が良くてもベッドの上で横になり、いつもと変わらない天井を眺めながら、ただただ時間が過ぎていくのを待つしかないのです。

 時間はあかちゃんを育てる。そんなことを思いながら。

 

 


 

当院に再び来られたのは、妊娠判定日から3ヶ月が経った頃でした。

ようやく動けるようになってきたようでしたが、まだまだ思い描いていたマタニティライフができる身体ではないようで、毎日が綱渡りのような感じで過ごされていたようでした。

 不育症に加えて、妊娠糖尿病も患い、血糖値の管理も徹底されているとのことでした。

 


 

 次に来られたのが37週を過ぎてからでした。

 妊娠中期から逆子が治らず、どうにかしたいと思いながらも、鍼灸院までの道が遠くてなかなか来ることができなかったけれど、やっと来ることができました。

ということで、2,3日間隔で3回ほど来られました。

 

 不妊治療を始めた頃の大きな期待は、これまでの10年の月日の中でどこかで諦めないといけないのかしれないという気持ちと隣り合わせになっていったけれど、子供が欲しいという気持ちをどこかに置いていくことはできない日常。

また、病院での不妊治療は、身体にとても負担となりつらくてしんどいことも多く、それに加えて夫婦間で考え方が違って衝突したりで、まるで重たい曇り空のよ うな日常。

そんな日常に温かな陽だまりを作るのが鍼灸だったそうです。

 

そして、いよいよ出産の時。

 

 産声が聞こえて、今までの不安が安堵に変わった瞬間。
 自然と溢れてこぼれた涙。
 今まで流した涙とは違う涙が頬をつたう。
 生まれてきたあかちゃんを抱きしめ、ただただ感謝の気持ちでいっぱいに。

 夢見た我が子を抱きしめながら、夢ではないことを確かめるように、今度はさっきより少しだけ強く抱きしめて、今の日常をそっと触れてみる。

 

10年におよぶ不妊治療の物語はこれでおわりです。