患者さんの妊娠・出産までのお話

これは、当院に通われていた患者さんの妊娠から出産までを描いたものです。

 

「春」

桜の木々が色づき始めたころ、初めて当院に来られました。

それまでは鍼灸整骨院に通われていたようですが、あまり身体の変化を感じることができなかったそうです。

 

最初の問診で話を伺うと、病院で血液検査など一通りの検査をされていて、その結果、片方の卵管が詰まっていること、AMHの数値が年齢より悪いこと、また夫の精子の運動率が悪いことなどを指摘されたようでした。

 

これらの数字に表れることを改善していくことで、妊娠する確率が上がると思います。
けれども、患者さんが妊娠ということに対してどのようにすればたどり着けるのか分からないという不安を取り除いていくことが、何より大事なことなのかもしれないという印象を最初の問診時に強く感じました。

 

身体を診ると水の流れが特に気になったので、春の雪解け水のようにさらさらと流れる川の流れが体にも必要であることを伝えて、実際に水の流れが良くなると、頭に血がのぼってのぼせやすい今の体がのぼせにくい体に変化しますよ、ということも併せてお話しました。

また、水の流れが良くなることで、身体の三大要素「気」・「血」・「水」のバランスが整い、妊娠しやすい身体へ変化していきます。

 

妊娠そして出産できる身体へと向かう道へ、春の暖かく柔らかな風のように、背中をそっと後押しできるように、週1回のペースでしていくことにしました。

 

 

「夏」

 

春から始めた当院での鍼灸で、妊娠そして無事に出産できる身体作りは夏を迎えました。

 

患者さんが一番好きな夏。
その夏に妊娠を!という思いとは裏腹に、タイミング法や人工授精の結果はいつも陰性続きで、体外受精へと進む準備を始められました。

当院では鍼灸と合わせて、体外受精をされている患者さんも多く来られていることもあり、奈良の○○クリニックはどんな感じで大阪の○○はどんな感じという、他の患者さんから聞くなまの声をお伝えしました。

 

体外受精と一言で言っても、採卵するまでの薬の処方の仕方、受精卵の移植の方法、移植後の生活スタイルの指導など、病院によって考え方は様々あるようですから、最後はいろんなところの病院に実際に行って説明会に参加して自分に合いそうなところに行かれることを勧めました。
また、病院の雰囲気なども自分に合うか合わないかも意外と重要なことだと思います。
そんな話を鍼灸に来られた時によくしていました。

 

患者さんはしばらく悩んだ末に、新しい病院へ。
そこでの血液検査で嬉しい変化がありました。
AMHが0.35→1.3へ改善し、FSHの数値も良くなっていたようです。
鍼灸をするとAMHやFSHの数値が改善することがよくあります。
患者さんにとってこの数値の改善は、自分の身体が妊娠できる身体へと変化してきている表れであり、大きな励みになったことだと思います。

 

新しい病院での検査も終わり、いよいよ採卵へ。

 

 

「秋」

 

ようやく残暑も落ち着き始めた9月の下旬に1回目の採卵を迎えることになりました。

いつもの週1回の鍼灸に加えて、採卵前にも鍼灸をしました。

 

採卵では、4つの卵胞が確認でき、最終的には2つ採卵することができたということでした。
そして、この大切な2つの受精卵を2つとも胚盤胞まで育てるのか、1つは胚盤胞でもう1つは初期胚にするのか、それとも2つとも初期胚で凍結するのか、数字上では妊娠率の高い胚盤胞まで育てたいけれど、そこまで育たなかった時のリスクを考えると初期胚の方がいいのでは??と、かなり悩んでおられました。

 

最終的には、2つとも初期胚で凍結という選択をされました。(初期胚でもお腹の中で胚盤胞まで育てたら同じこと、そのように言った私の言葉も後押しになったようでした)

 

そして、次はいよいよ移植です。

採卵後、1周期あけた1カ月後に移植というケースが多いようですが(新鮮胚移植を推奨しているところを除く)、患者さんは移植に向けて身体作りをもう少ししていきたいということで、移植をする時期は数カ月先になりました。

 

妊娠そして出産という目標に向かって、週1回のペースで鍼灸をしていきます。
鍼灸をしている強みは、採卵から移植まで通常より長い期間をあえて選択することができます。
もし体外受精(西洋医学)だけをしている人なら、このような選択はしないかもしれませんし、もしかするとこのような選択肢を思いつかないかもしれません。
しかし、鍼灸と言うアイテムを持っている人は、着床率をより高くするために身体作りをするという選択もできます。

これが鍼灸の強みでもあります。

 

2つの初期胚を凍結し、季節は冬へ

 

 

「冬」

 

12月、移植の日が決まりました。
移植当日も鍼灸をしました。

 

その後も判定日まで鍼灸をして、迎えた2週間後の判定日。

 

初期胚での移植は胚盤胞に比べて着床率が落ちると言われていますが、クリスマスを目前にして一足早く大きなクリスマスプレゼントを受け取ることができました。

 

無事に妊娠され、妊婦の体になった患者さんでしたが、今まで以上に1日がとてもとても長く感じる日々を送ることになります。

6週目につわりの症状が出てきて、8週目に入った頃には食べてはもどす食べてはもどすという状態で、この頃も引き続き週1回の鍼灸を続けていましたが、鍼灸を受けた日は体調が良くなりますが時間が経つにつれてまたつわり症状が出てきてしまい一進一退が続く冬になりました。

 

そして、この時期は1年の中でもっとも陰が強い時です。
身体もそれに引っ張られてどうしても鬱々としがちになります。
週1回の鍼灸は、沈みがちな心のケアも気に掛けながらツボを選び身体を整えていきます。
こうすることで、お腹の中のあかちゃんへのストレスも減り、あかちゃんの成長につながっていきます。

 

あかちゃんの方は6週目には心拍確認ができて、とても順調に育っていました。

 

 

「1年後の春」

 

鍼灸をする時は、毎回脈を診てから始めます。

ある日いつものように脈を診ていると「あれ??」
いつもと違う印象を受けました。

 

私は脈を診た時に、昼ごはんに食べたものや夕食に何を作ろうとしているのかとか、いろいろと感じたりしますが、その1つにこの患者さんはもう来院されないなということを感じることがあります。
今回もそのように感じました。

しかし、患者さんは里帰りするまでは毎週来ますと言っていたのに、一体なぜだろう??
脈からは患者さんのお腹の中にいるあかちゃんが弱っているような感じはないし、なんだか腑に落ちないでいました。

 

そして翌週、患者さんから前回の病院での検診で子宮に6センチの筋腫があるということが分かったということを聞きました。

それからしばらくたったある日、筋腫が変性をおこして、お腹の強い痛みと張りによる切迫早産で緊急入院されました。

結果的に、これを最後に来院されることはありませんでした。

 

 

「1年後の夏」

 

春からの24時間点滴をつけての入院生活がしばらく続いた後は、家での絶対安静生活。

 

先の見えない焦りや苛立ち、不安に押しつぶされそうな気持ち
楽しいことよりつらいことの方が多かった日々
けれども、自分の子どもに見つめられた時
今までのことがすべて報われた安堵感へ

 

出産予定日より2週間早い出産だったにも関わらず、3100gを超えるお子さんだったそうです。

陽性反応の知らせを聞いた時
胎嚢確認の知らせを聞いた時
心拍確認の知らせを聞いた時
その時その時で、私もうれしく思う気持ちでいっぱいだけど、ゴールはおぎゃーと産まれてくるあかちゃんを抱くことなのだから、いつも「良かったね!」という言葉をかけてきたけれど、無事に出産されたことを聞けて、初めて「おめでとうございます!!」
と言葉をかけることができました。

 

患者さんが一番好きな夏。その夏に出産されました。

そして数日後、病棟で患者さんのお子さんを見た、見ず知らずのおばさまから「あなた、妊娠中に何か気をつけてしていたでしょう」と声をかけられたそうです。

 

その時、患者さんは「鍼灸をしていました」と返事をされたそうです。

 

 

こも池鍼灸院